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[Novel]右側通行防衛戦線

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 入江和泉は激怒した。
 慣れない常磐線各駅停車南柏駅にて、代々木上原行きへ乗ろうとしたときのことである。
 一緒に上京してきた高校の友人と、渋谷で遊ぶ約束をしていた入江和泉は、謎の暖かさのある四月最初の土曜日を遅く起きた。約束は十一時からになっていた。時計を見ると現在の時刻は九時半。入江和泉は目が八つ重になるほど開き、慌てて布団を出た。どうするべきか。ご飯を食べるべきか、歯を磨くべきか、ヘアスタイルはどうするか、服はどうするか。いやいや、そんなことを考えている暇などない。とりあえず歯を軽く磨き、この前買った503に、クリームのサイケチックなプリントが入ったTシャツ、そして入江和泉のトレードマークと言っていいほどの濃いパープルのパーカーを身につけ、アーノルドパーマーのスニーカーを履いて、急いでアパートを飛び出した。ヘアスタイルなど適当だ。
 入江和泉は我孫子に住んでいた。ここから渋谷までは一時間十分ほどかかる。五〇分ぐらいに出る電車があればギリギリ間に合うであろう。入江和泉はそう期待しながら、セブンイレブン白山店の目の前を通りかかった。
 少し腹を満たそう。入江和泉はセブンイレブンに入り、おにぎりなどを物色した。そして焼肉おにぎりとチョコクリームパン、水を買った。入江和泉はそれらを駅へ向いながら食べた。入江和泉は昔から甘いものは最初に食べることにしていたが、その時の入江和泉は寝起きだったせいもあるが、とにかく塩分が欲しかった。先に焼肉おにぎりを食べることにし、チョコレートクリームパンは、表参道から半蔵門線へ乗り換えるときにでも食べようと入江和泉は考えた。
 入江和泉おにぎりを食べ終わった頃ぐらいに、駅切符販売機前に着いていた。入江和泉は昨日のうちに運賃を調べていたので、景気よく六八〇円の切符を買った。入江和泉はにたにた笑いながら改札口へ向ったが、電光掲示板を見て絶望した。代々木上原行きの電車が五八分発となっている。誤算だった。現在、九時五十一分。快速上野行きならば五六分に出る予定になっている。入江和泉は快速に乗り、日暮里で山手線に乗り換えていくことも考えた。しかし千代田線に乗って行ったほうが運賃が二百円ほど安い。そして、切符の払い戻しのやり方がわからない。どうしようもないと感じたので、入江和泉は五八分発の電車に乗ることにし、友人にメールで送れることのうまを伝えた。
 入江和泉は改札を通り、プラットホームに下りた。既に五八分発の電車は停車していた。入江和泉は、ここでチョコクリームパンも食べてしまい、買った水も一気に飲み切った。駅へ行く途中、少し走ってきたせいか少々息が上がっていた。食べ終わると入江和泉は四号車に乗り込んだ。車両には誰もいなかったので座る場所には不自由しなかった。電車が発車する時間が来るまで、携帯電話でゲームなどしながら過ごした。
 電車が動き出したところで、入江和泉はある違和感を覚えた。肛門がやけに閉まってもぞもぞし始めたのだ。これは一大事だ。腹を出して寝ていたからなのか、それともさっきの焼肉おにぎりが原因なのか、普段ハズレ商品だと思っている、チョコクリームパンを食べたからなのか、水を大量に飲んで腹が冷やされたのか。どれが原因だかわからないが、入江和泉は腹を下したようだ。しかしこれ以上の遅刻は友人に申し訳がない。せめて表参道まで我慢しよう。入江和泉はそう思いながらパーカーのファスナーを上まで閉め、腹を腕で抱え、一生懸命腹を温め始めた。しかし、柏で運悪く六歳ぐらいの子どもに鼻をプッシュされ、緊張がほぐれてしまった。だめだ、もう抱え切れない! 私はこの爆弾を抱え切れない! カウンターテロリストよ、いるなら私のC4を処理してくれ!!
 黄色い絨毯の上で、九三で死んだ婆さんが手招きするのが見えたので、さすがやばいと感じ、南柏で降りて用を足すことにした。とても便所らしい便所で、洋式便器に座る気をうせるほどのアンモニア臭とそこら中の噛んだ後のガムがあった。そこで二十分ほどの格闘の末にお腹のゆるさからは開放されたようだ。時刻は十時三〇分。今度の上り電車も三〇分に出る予定になっているようだ。どうやらまだ駅には到着していなかった。助かった。急いでプラットホームへ下りることにした。
 しかし、プラットホームには三一分発の下り列車が既に到着していて、休日の昼間だというのに降りて来た乗客が、夕方ラッシュ時のごとく、人ごみの渦を巻いて階段を上ってくるではないか。入江和泉は階段の右側から下りていたので、ちょうど上ってきた客に押し戻される羽目になってしまった。入江和泉は少し困惑したが、すぐに自分の間違いに気付き急いで下り階段から下りようとしたが、下り階段からも人ごみが押し寄せてきた。これでは下りる所がない。入江和泉は人を掻き分けながら階段を降りていこうとするが、一向に進まない。逆に入江和泉はまた階段上へ押し戻される結果となった。入江和泉は怒った。下り階段から何故人が上ってきて、下りようとした私が煙たがらなければならないのか。入江和泉は怒りながらエスカレーターからプラットホームへ下がろうと考えたが、後ろを振り返ると既にエスカレーターを使い上ってきた客が長蛇の列を作り、改札へ続く囲いを作っていた。入江和泉は列の大きく開いた間を狙って通り抜け、下りエスカレータへたどり着いたが、その瞬間に上り電車のドアが閉まり、間抜けな音とともにプラットホームから離れていくところが見えた。
 入江和泉は激怒した。
 左側通行とか江戸時代か、ここは。

 入江和泉は飯に水をかけた。
 入江和泉渋谷入りしたのは一二時ちょっとぐらい前。友人はハチ公前で一時間ぐらい待っていたそうだ。正直すまなかったと赤面している。友人の名前は少女漫画に出てくるイケメンと同じ名前だったが、正直のっぺらい顔をしているので、入江和泉はこんなやつに赤面してもしょうがないとかと思った。
 ちょうどお昼時だったので、二人は昼食をとることにして色々歩き回った。入江和泉は仙台にいた時、アジュールバーガーでアルバイトをしていた。当時店長に直営店のレベルはうちなんかの何倍もすごいから、一回食べてみるといいと行っていたのを思い出したので、アジュールバーガーで食事をしたいと考えていた。またこの地でのアルバイト先を、またアジュールバーガーを考えていたので、関東のレベルとやらを知っておきたかった。二人は十分ほど歩いて偶然アジュールバーガーを見つけた。ここにしようと入江和泉は友人に提案したが、友人は牛飯を食べたかったらしく、アジュールバーガーの隣にある森屋を指差していた笑っていた。友人のセンスの無さに絶望した。渋谷まで来て牛飯か。せめてクレープとかなんとか言ってくれれば納得したのにな。

 二人は森屋に入った。森屋での精算方法は券売機を使うので、コミュニケーションがあまり得意でない入江和泉にとって、都合が良かった。前に吉田屋に入ったときは、どこで精算すればよいのかわからず、一時間ほど座り往生していたことがあった。入江和泉はとりあえず牛飯玉子特盛セットを注文し、右側の開いている席に座った。店内はカウンター席のみだった。相席が無かったため、友人は左側の離れた席に座ることになったが、しょうがない事だった。入江和泉は腹が減ってしょうがなかった。早く牛飯を食べたい。店員は二人いて、カウンター席担当の店員は、知性のかけらも無いようなナマケモノのような目で、宙を見ていた。入江和泉が席に座ってから、一分ほど経った。後ろの厨房担当の店員は、既に入江和泉の注文の品をすべて準備し終えていて、後は運ぶだけと言う状態になっていた。カウンター席担当の店員は依然と未来に生きていた。いい加減ならんと入江和泉はしびれを切らし、すみませんと店員を呼んだ。入江和泉の声で、カウンター席担当の店員は何とか現世に帰ってきたみたいだったが、知性の矢の字も知らないような顔をして、水だけを運んできた。入江和泉はやっと飯にありつけると思ったが、店員は再び四次元へ舞い上がった。もしかして、森屋は吉田屋よりも難易度が上なのか? もしかして客が何かへりくだらないと、運んできてもらえないシステムなのだろうか。別ににらみ合っている訳でもないが、店員と入江和泉との間に窮屈感があった。なんだかイライラしてきた。居た堪れなくなり、態度のでかい店員に対して、お願いしますと入江和泉は細い声を張り上げ、店員に食券を出した。それに気づいた厨房側の店員が、カウンター側の店員に食事を運ぶように促した。カウンター側の店員はいきなり爽やかな笑顔になり、「牛飯玉子特盛セットお待たせしました」と入江和泉の元へやってきた。入江和泉は怒鳴って起立した。店員は黙って卓に食事を並べた。いい気になりおって。貴様は私が田舎者だからといってなめとんのか! 資本主義の犬めが!!
 入江和泉は飯に水をかけた。
 入江和泉はそのまま森屋を出て行って、そのままコンビニへ直行した。

 基礎ゼミには、入江和泉の居場所は無かった。
 あれから一ヶ月。何故か左側通行の学校内の廊下を歩いていた金曜日の昼十時半ごろ。入江和泉はこの教室に入るのがあまり好きではなかった。付属高校のある大学に入るんじゃなかったと一〇八回は考えたであろう。この基礎ゼミの八〇%は付属高校から来たボンクラから成り立っていた。そして、やつらは妙に入江和泉に絡んでくるのだ。こちらは田舎から単身上京してきた、蚊蜻蛉並みの脆い体だというのに、なんだその高校三年生みたいなノリ。毛虫同士が絡み合っていているようにしか見えない。気持ちが悪い。しかし、そんなノリの悪い入江和泉にも、ほどほどに仲良くしてくれる学生がいた。名を紺浩と言った。外見は小柄でいつもマントのようなコートを着ていた。身長が低いくせに丈の長い上着を着ている紺浩は、余計に小さく見えた。紺浩は最初のうちはいい友人を演じ続けた。だが、六月を過ぎたあたりから、紺浩は学校に来なくなった。代返してくれだの、ノートを代わりとってくれだの入江和泉に注文するようになってきた。入江和泉は大事な友達だしと思い、最初のうちは素直に聞いていた。しかし、紺浩は考察期間以外学校に一切来なかった。入江和泉は良いように使われていただけだったのだ。ついに居た堪れなくなって、入江和泉は数学の紺浩の代返をやめた。紺浩から来るメールも無視した。
 一年次の秋を半分過ぎた。入江和泉は相変わらずひとりで、いまさらサークルに入るのもどうかと思っていた。周りは金熊のような猿どもが、バカの物覚えのようにタバコを吸っていた。その中のチョコレートのような煙の香りが、更に入江和泉をしんみりさせた。
 そんなときだ。同じ基礎ゼミの女子に飲みに誘われた。そういえば入江和泉の誕生日が近かった。もしかして気を使ってくれて誘ってくれているのだろうか。いつもは付属のやつらとバカ騒ぎをしているこの低俗女も、いいところがあるな。入江和泉は正直泣きそうになった。素直に誘いに乗った。飲みは駅前の小さい居酒屋で十人ほどの参加だった。入江さんってどんな人? 基礎ゼミじゃ一番後ろの席で寝ている入江和泉。入江和泉の人相を知らない人間の方が多いのは当たり前だった。入江和泉はあまり自分のことを話したくなかったので、適当な嘘と少々の真実を混ぜながら連々と話していった。話が盛り上がってきたところで、入江和泉にビールが差し出された。入江和泉は困惑した。私はまだ未成年だ、酒など飲めない。まぁまぁ、そんなこと言わずに。入江和泉はおだてに乗ってしまい、ビールを一杯飲んでしまった。腐ったトマトと焦がしベーコンの味がした。そしてたまに気持ちが悪くなってきた。しかし、彼らは入江和泉にお酒をどんどん勧めてくる。入江和泉は正直もう飲みたくなかったが、断ることもできず全部飲んでしまった。その後の記憶は曖昧で何を話していたのかも覚えていなかった。気付いたら知らない人の部屋で寝ていた。部屋の主は床で、入江和泉はベッドで寝ていた。正直名前を知らない部屋の主にはすまない感じがしたので、部屋の主が起きるまでベッドで寝たフリをしていた。人が寝ていたベットというのは、普段感じないその人の脂の匂いなどがした。あんまり心地がいいもんでもないが、悪くは無い感じではあった。
 部屋の主は一時間後ぐらいに起きてきた。入江和泉も何事も無かったかのように目覚めた。入江和泉は少しとぼけたような感じで、部屋の主に挨拶をした。そうしたら、部屋の主は仙台の言葉で何か話してきた。あれ、君は確か千葉出身ではなかったか。そうだけど、昨日君が酔っ払った後、すごく面白い言葉を発するもんだから、覚えてしまったのだよ。リアル仙貨みたいだったよ。入江和泉は一気に顔の温度が上がっていき火照ってしまった。肩甲骨の辺りが微妙に強張った。あれほど仙台弁は封印してしまおうと思っていたのに、ぼろが出てしまった。しかも全然知らない人に。部屋の主は入江和泉のためにパンを焼いてくれていると言っていたが、恥かしくなって猫のように逃げ帰ってきてしまった。
 基礎ゼミには、入江和泉の居場所が無かった。
 この前の親しくなった彼らの輪に入れる余地が、入江和泉の心の中に無かった。

 入江和泉は、最終的に逮捕された。
 あっという間に四年次になった入江和泉は、宇宙空間物理学の研究を主にしているゼミに入った。ここならば基礎ゼミの連中はいないであろう。そう思ったが望んだゼミ初日だったが、教室には一年次の時お世話になった、部屋の主がいた。大変な誤算だった。厳しいゼミだと聞いていたから、ボンクラ連中は来ないだろうと期待していたのだが……。部屋の主の名は赤坂邦枝と言った。付属高校の連中ではなかったが、仙台弁でまたバカにされるんじゃないかという恐怖感が入江和泉にはあった。そしてもうひとり、紺浩がいつものようにマントのような長い上着を着て座っていた。入江和泉は絶体絶命だと感じた。ここで会ったが百年目とか言って、絶対に何かされる。
 ゼミは全員十二人で、赤坂邦枝と紺浩以外に知っている人がいなかったのが唯一の救いだった。そうさ、ここから自分を作っていこう。入江和泉は四年次にして、大学デビューに望むような覚悟を決めた。さぁ、前期のグループ決めが重要なポイントだ。ここで外したら、私の生命はもう二度とないと思え。神に望む思いで引いたくじの結果、入江和泉は赤坂邦枝と紺浩と組むことになってしまった。大好きなアンパンを落としてしまったときのような気分だ。終わった。私の人生は終わった。人生二○年間、お母さんありがとう。よりによって、裏切った相手と入江和泉の恥かしい姿を知る赤坂邦枝と組むことになってしまった。
 ゼミの先生からは前期最終日に卒業研究の課題を決め、ある程度の課程をレジュメにして来いという課題が出されていた。赤坂邦枝は地球温暖化に伴い変わりつつある磁極について、どういったことが地球で起きているのか、紺浩はフォトンベルトとか気になるよななどと、二人はサブタイトルを何にしようか論議し合っている。入江和泉はそれを黙って右から左に受け流している。どうしてよりによってこの二人なのだろうか。赤坂邦枝には面倒見の良い年上的魅力を感じていたが、心を許していいのだろうかという懸念があった。そして問題は紺浩だ。おそらく紺浩は入江和泉のせいで数学の単位を落としたに違いない。いつ逆恨みで襲ってくるかわからない。そう思うと、どよめいていることさえ危険だ。何時襲われてきてもいいように、入江和泉は紺浩を横目で睨んだ。真面目な二人の論議はいつの間にか、アニメの話に変わっていた。入江和泉には知らない話だった。どうやら国民的人気アニメの話をしていたようだが、そのアニメが放映されていたチャンネルは、仙台の入江家ではたまたま電波の届かないチャンネルで、マンガのほうも人気があったが、入江和泉には興味の外にあった。二人はそのアニメの話だけで、いくらでも話していけそうだった。そういえば入江さんは何か好きなアニメとか無いの? と赤坂邦枝にいきなり訊かれた。しかし、入江和泉は紺浩の動作に注意を払っていたために、突然の質問に答えられなかった。答えられなかったかというより無視していた。赤坂邦枝はわははアニメは見ないか、などと言って、数十秒の沈黙をなんとかした。
 その日の学校の帰り、電車を待つ三人がいた。入江和泉は黄色い線の上に立っている。その後ろで赤坂邦枝と紺浩が何か話をしていた。入江和泉は、家に帰ったら早速母に泣きの電話をしようと、色々愚痴を考えていた。そろそろ電車が南柏駅へ着く時間だったが、何時までも電車は来なかった。後ろの二人は相変わらず何かについて話していた。時折赤坂邦枝の視線を感じたが、無視した。突然二人の会話がやんだ。十秒ぐらいひそひそ話しをしているのが聞こえた。何をこそこそと入江和泉が僻んだ次の瞬間、入江和泉の膝の裏に何かが直撃し、体が急に軽くなった。そして線路へと落ちていった。入江和泉は線路に頭をもろに直撃し、蹲っていた。入江和泉は細く目を開けて状況を判断した。何故か暗い場所に投げ出されていて、上から赤坂邦枝と紺浩が見ていた。駅員が急いでやってきて、入江和泉はプラットホームの上へと、引きずり上げられた。その後赤坂邦枝と紺浩と一緒に、駅員に連れられて事務室へ連れて行かれた。駅員に二人は説教をくらっていた。やったのは紺浩だったようだ。入江和泉は駅員にけがの具合を見られていたが、たいしたことはなかった。後日具合が悪くなったら病院へ行くことと、早めに事務所から帰された。その後入江和泉は、二人を心配で待った。数分後二人は出てきた。警察沙汰にはならなかったみたいで、入江和泉はほっとしたが、紺浩は何事も無かったかのように、笑顔で悪い悪いと言った。
 もう我慢ならん。入江和泉はビー玉を駄菓子屋から大量に購入し、南柏駅へ向った。関東は何故私の邪魔ばかりをするのか。昨日の紺浩のこともそうだ。静岡出身のお茶でできたようなやつに、私は殺されかけた。そしてなんだあのヘラヘラした笑顔は。基礎ゼミの頃からそうだった。あいつは人をおだてて上げるだけ上げて、私を利用したかっただけだったんだ。あれは復讐だ。私への報復だ。私はやつの単位を奪ったからだ。私がやつの思い通りに動いていれば、こんなことをやろうとは思わなかった。しかし、それでは私はやつの駒だ。それに赤坂邦枝も、なんだ。やさしそうな顔しておいて、やることは結局関東人なんだ。そうだ。何が関東だ。何が関だ。皇居があるだけで奢り高ぶっているだけの首都圏が。そこに集まる無表情のマネキンどもが。時代の最先端を行っているとでも思っているのか。買い物カゴに商品入れただけで「買いました」って言うのやめろ、日本語になってないから。「買うつもり」だろ? あと値引きされないからといって、カツアゲしてくるのやめろ。関東は脅してなんぼの世界なんですか? 「お前は東北出身だからわからないかもしれないが」って大きなお世話だ。パソコンの使い方もろくに知らないようなやつに、仕組みについて教わる気なんてない。いそいそと聴いてられるか。坂上田村麻呂がいた時代ではないのだ。私が東北出身だからといって貴様らに裁かれる筋合いなんて無い。非難される気もない。それと右側通行なのか、左側通行なのかどっちかはっきりしろ。足が速いのか遅いのかはっきりしろ。エスカレータ、どっち側に立つかはっきりしろ。そもそも下り階段から上ってくるな、阿呆愚民ども。ここにビー玉を用意した。私が今からすることはわかるな。そもそも私がこんなになってしまった原因、南柏駅下り階段。私はこの階段を今から殺す。
 『まもなく一番線に各駅停車、柏行きが参ります。危ないですから黄色い線までお下がりください』入江和泉には最果てからの声に聞こえる。間抜けな音と共に電車がやってくる。入江和泉はビー玉の入った網の口を広げて、左側の上り階段を使い上へと上って待ち構えた。電車が到着し乗客が次から次えと上り始めてきた。もちろん下り階段からも。入江和泉はもう網を逆さまにすれば良いだけの状態にしていた。涎がたれてきそうだった。明日の一面は「大学生がビー玉で殺人未遂?!」「関東民への報復か」タイトルが楽しみでしょうがない。さぁいくぞ、やってやんぞ。さよなら関東! 入江和泉の手からビー玉が二、三個袋からこぼれた。
 入江和泉は、最終的に逮捕されたのだ。

   * * *

 そのビー玉を急いで誰かが拾った。赤坂邦枝だった。赤坂邦枝は入江和泉の手を押さえた。入江和泉は赤坂邦枝の顔を見て逃げたくなった。今お前何をしようとした。さっきから赤坂邦枝の顔がそう言っている。けんけんぱをやろうとしたなんて、場所が場所だけに言えない。ラムネおいしかったよ、そんなことも言えない。そのまま赤坂邦枝に連れて行かれ、赤坂邦枝の家に閉じ込められた。赤坂邦枝は焼いたパンに目玉焼きを乗せただけの、朝食のようなものを入江和泉に食べさせた。一晩過ごした後、入江和泉は赤坂邦枝に病院に連れて行かれた。入江和泉は強迫神経症と診断され、よくわからない注射を打たれて、医者に来週も病院へ来いといわれた。それ以外は何か面白い話をしただけで、何にも怖くなかった。赤坂邦枝は入江和泉の右手をしっかりつかんで、入江和泉の住む我孫子までつれて帰った。入江和泉は関東に来てから最も至福な今日だったのかもしれないと感じた。

平成二二年五月二五日 

 

 あとがき

 最近小説を書いていなかったので、練習のつもりで書いたのでイマイチな作品になっているとは思う。ゼミの連中に見せても評判があまり良くなかったのも、その辺から言える。
 基本的に文才がないので、うまく書くには努力するしかないと思う。なので今回サイトを新しく作ることにした。こうした中で批評とかもらえれば幸いかと思うが、今は卒業論文の中間発表が近いので、宣伝活動はあまりせずに、とりあえず作ったものをあげていくだけにしてみようと思う。 

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